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Sensual column~食材めぐり②

Thème : キャヴィア

食材、ワインにかかわる事を気ままに紹介するページ。
今回のテーマはキャヴィア(Caviar)です。

キャビアとはチョウザメの卵巣をほぐして塩漬けにした保存食の一つです。
現在、世界には26種類のチョウザメが生息していると言われています。その姿から名前にサメとついていますが、実際には古代魚の一種でサメの仲間ではありません。サメと異なりチョウザメは体内環境調節に尿素を使わないことから、その身は臭みがなく、キャビアを取った後も食材として利用されたりします。また、名前に「チョウ(蝶)」とついていますが、これは体の側面についている堅い鱗が蝶の形に似ていることに由来しています。

チョウザメのほとんどは河川で生まれ、海や湖などで成長します。成熟すると生まれた河川に戻って産卵し、また海に戻る習性を持っています。鮭はその一生で1度だけ産卵をしますが、チョウザメは個体として成熟してから何度も産卵をすることができます。ただ、商品とするために「卵巣を取り出す」=「一生を終える」ことにもなりますので、成長が非常にゆっくりな(一般的には個体の成熟まで10年前後かかる)チョウザメは、数を確保するための対策、養殖などはとても重要です。
餌は、海底では二枚貝、甲殻類や小魚、河川域では昆虫の幼虫やザリガニ、巻貝を食べます。

かつてロシアではカスピ海を中心にキャヴィア漁が大変盛んに行われていましたが、ソビエト連邦の崩壊後、闇市などが横行した経緯もあり、乱獲によってその量は激減してしまいました。
フランスでは1920年代から、特にボルドー地方のジロンド川、ガロンヌ川、ドルーニュ川に生息していたヨーロッパチョウザメを(高価なキャビアを)とるために漁が行われていました。しかし、生産量の増大のため乱獲や密漁が増え、チョウザメの数は次第に減少していきました。フランスでチョウザメが見られるのはジロンド河口だけとなってしまいました。

次に、キャビアの代表的な種類を紹介します。チョウザメの種類によって卵の粒の大きさとブランド価値が異なります。
●ベルーガ:キャビアの中で最上といわれるオオチョウザメの卵。体長は4m弱、体重は100~200kg。採取できるキャビアの量は体重の約15%、つまり1匹から15~30kg位しか取れません。また、近年は漁獲量も減少してきて、価格も高く希少価値が高まっています。
●オシェートラ:ロシアチョウザメの卵。体は2m程で、体重は40~80kg。粒はベルーガより小さくなりますが、色は鮮明な灰色をしています。ジョエル・ロブションさんがよく使っていたのはこのサイズのものでした。
●セブルーガ:ホシチョウザメの卵。上記2種のチョウザメに比べ、一番小さく、体長は最大で1.5m、体重も25kgを超えることがあまりありません。キャビアの粒も小さく、色も暗い灰色をしています。ブルガリア、中国、イスラエルでも養殖が行われています。

上記3種のチョウザメはいずれもカスピ海沿岸地域に生息しています。この地域で世界のキャビア生産量の約90%をまかなっています。しかしながら、この地域でも石油や石油ガスの生産、都市化、ダム建設などが原因で自然環境が乱され、漁獲量の急減、種類によっては絶滅の危機に瀕しているものまであります。このようなことから、漁獲量の制限強化や稀少動物の保護の面からも、ヨーロッパではチョウザメの養殖を進めるようになりました。フランスでの養殖は1980年代から始まったようです。

キャヴィアを加熱をしていただくことはあまりないと思いますが、シンプルにその味わいや旨みを楽しむ組み合わせがあります。
その代表格がブリニとのものでしょう。ブリニはもともとロシア料理で、おもに蕎麦粉を使って焼き上げる柔らかい食感が特徴の小振りなパンケーキといった感じのものです。ただブリニには厳密な決まりがあるわけではないらしく、小さなパンケーキ状のものから、薄く伸ばしたクレープ状のものまでその形は様々です。
ブリニとキャヴィアの間にはサワークリームを合わせていただくと、素材の風味を存分に楽しめるといわれています。

EU、アメリカ、スイスに次いで輸入量の多い日本。国内でも生産量が増えてきており、品質も優秀なものが多いです。生産から流通までの時間を抑えられる分、素材本位の味わいを楽しむ機会はこれからも増えてくることでしょう。

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