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Sensual column~ワインあれこれ①

Thème : コルク(Cork)

多くのワインボトルの口にはコルクが打栓されています。今回はそのコルクについてのお話です。

伸縮性に優れ、瓶口を密閉することでワインを劣化から守ってくれる天然コルクの存在は、人工的なコルクやスクリューキャップが増えてきた現代においても、こと熟成させるべきワインにおいて高い信頼と地位を保っています。

もともと、ケルトと呼ばれた人々やゲルマン人を中心に、ヨーロッパにおいては、人間よりもはるかに長生きをする木々を“特別な力が宿るもの”として信仰の対象にする「樹木信仰」という価値観があります。ユグドラシルという世界樹を中心に展開されるその世界観は、今も北欧神話などに残っています。
そしてヨーロッパに古くより存在したそれらの文化を持った民族は、ガリア(フランス)の隆盛、ローマ帝国の侵攻などによって次第に生活の場所を追われ、北に、西にと分散していくことになります。
そんな中、現在のスペイン、ポルトガルでは、樹皮を剥いでも幾度となく再生するコルク樫が、“復活:再生“という新たな価値観を与えられることで多く植樹されることとなり、ワインの栓となるコルクの供給量は現代においても両国で90%以上のシェアを誇っています。

実際には植樹されて最初に剥ぎ取られる樹皮は“ヴァージン・コルク”と呼ばれ、はじめのうちは目が整いきれていないために長期保存を目的としたワインの栓にはなりません(粉砕してコルクボードなどに利用)。ワインコルクとして状態が整うまでにだいたい20年くらいかかるといわれています。そこからは9~10年間おきに、再生の時間をしっかりと取って皮を剥ぎ取っていきます。コルクの品質と供給を保つため、このサイクルはかなり厳密に守られているようです。

しかし、そんなコルではあるのですが、難しい問題も抱えています。その一つが供給量、そしてコルクによるワインの品質の劣化であるコルク臭(英語:corky、仏語:bouchonné)です。
コルク臭はなぜ起こるのでしょうか?

コルク臭の原因として言われるのが、トリクロロアニソール、テトラクロロアニソール(双方とも略してTCA)と呼ばれる物質で、コルクを製品にする過程で塩素漂白&洗浄を施した際、残留した物質がコルクを構成する成分の一つであるリグニンという物質を変質させて生成されるとされています。
瓶を横に倒して保管することの多いワインは、液面とコルクが接触することによってTCAが溶け込んでしまうことになるようです。事前検査の精度も上がってきてはいるものの、まだ一定数のブショネは存在しています。
さらにやっかいなことに、このTCAはごく少量でも味覚に影響を与えるため、熟成期間も含めて何年もかけてワインを造る生産者にとっては頭の痛い問題となっています。
ただ、コルクを抜く作業というのはどこかワインを神聖なものとして感じさせるものがありますし、高級ワインにおいては生産者、飲み手ともに天然コルク支持者がまだまだ多いのも事実です。
ブショネに対抗する策としてシェアを伸ばしているのがディアム社のコルク。これは天然のコルクを粉砕して、超低温下で液体となった二酸化炭素に通すことで、ブショネの原因やその他雑菌(約15種類に効果があるといわれています)をほぼ100%除去し、人体に影響のない特別な決着剤によって成形して出荷されるものです。ワインのタイプに応じて長さのタイプが複数存在しており、生産者が最適解とするものを選んで購入できます。

コルクの供給量については、人工コルクの技術の向上、ワインのタイプによってスクリューキャップを利用するなど具体的な代替案が実績を上げてきています。
代表的なメーカーだと、アメリカやベルギーで生産されているノマコルク社の人工コルク。弾力性や酸素の透過率など、天然コルクのそれと非常に近く、アメリカやオーストラリアなどから広がりを見せ、現在ではフランスなど古くからのワイン生産国でも採用するワイナリーが着実に増えています。
余談ですが、このコルクの酸素透過率は3段階に分けて生産されており、ワイン生産者は自分のワインのタイプ、瓶詰後の変化・熟成を理想に近づけるために、どのモデルが最適かをセレクトして仕入れることが可能です。

様々な栓を試行錯誤する現代は、それぞれのワインの味わい・変化に対する価値観が複数存在するちょっと面白い時代なのかもしれません。
栓やボトルなど容器が熟成に与える影響については別の機会にお話しさせていただければと思います。

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