digress

Sensual column~食材めぐり①

Thème : フォアグラ(Foie-gras)

最近ではフランス料理に限らず目にする機会の増えたフォアグラ。
鴨や鵞鳥にたくさん給餌し、通常の5~10倍に肥大したそれらの肝臓をいただくものですが、食材としての歴史は古く、エジプトの第五王朝末(紀元前2500年ごろ)のファラオの墓室から出土した画にも、羽をむしられる鴨・鵞鳥とともに、今と近い形で餌を与えられる姿が描かれています。(今はレプリカを、ルーヴル美術館のシュリー翼一階、第五展示室で見ることができます。)

このどんどんと餌を食べさせる給餌法はフランス語でガヴァージュ(gavage)と呼ばれ、時代や場所によってエサの種類も様々に工夫がされていたようです。
例えば、ギリシャではつぶした小麦と水を混ぜ合わせたもの、ローマ時代には乾燥させたイチジク、ヘブライ人(ユダヤ人)は宗教上の理由で自分たちが禁止されている豚の脂身を、そしてアンダルシアのアラブ人たちは胡麻を与えて太らせていたといいます。
最近のヨーロッパでは15~18世紀に生産量が拡大したトウモロコシを与えるのが主流になっています。

はじめは、渡り鳥が旅に出る前には栄養を蓄え太っていたのに、旅から帰ってくると痩せた状態で戻ってくることに気付いた人がいたのでしょう。旅に出る直前の鴨や鵞鳥の肉を目当てに捕まえていたと推察できます。
そのうち、生きていくための栄養(カロリー)が季節を問わず口にできるように養殖がはじまります。
本来は秋に食欲が増してきて栄養をたっぷりと蓄えた後、旅をすることでそれを消費していた鴨や鵞鳥たちは、渡りをしなくなることで太った状態を維持することになり、脂肪肝をかかえることになっていきます。
すべての人が食事を満足にすることが今よりもはるかに難しかった時代に、生きていくためのカロリーを確保する上で、フォアグラはその味わいも相まってとても重宝され、養殖も途絶えることなく引き継がれていくことになります。

ここまで読んでいただいて、“カロリー”という言葉が何度も登場していますが、今と比べて労働の内容が肉体労働に寄っている時代には、身体を維持するためにより多くのカロリーが要求されます。ですから、第二次世界大戦のあとくらいまでは、生ハムも脂身が多いほうが高価でしたし、“クラシック”と呼ばれるフランス料理を忠実に再現すると、現代の方々には味わいが少々重く感じられるのではないかと思います。

話が少しそれてしまいました。
ガヴァージュをはじめるまで、鴨や鵞鳥はなかば放し飼いのような環境でのびのびと育ちます。そしてガヴァージュがはじまると、鴨の場合では口に漏斗を突っ込む形で1日2回、期間は約3週間、多めの食事を強制的に施されます(最近では需要を満たすため2週間で仕上げる場合も)。
もともとは手作業で行われていましたが最近では世界的な需要に応えるため、効率化と従業員の作業負担を減らす目的もあって機械の導入も一般的です。ただし、強制的に餌を与える光景が動物愛護の観点から非難されることも増えており、現在アメリカのカリフォルニア州では一切の食用が禁止されているほか、ニューヨーク州も2022年には禁止される予定。その他の国や地域にもこの流れはおこりはじめており、将来的には限られた場所でしか口にすることができなくなるのかもしれません。

さて、鴨のフォアグラと鵞鳥のフォアグラ。どっちが美味しいの?と言われると鴨派・鵞鳥派の熱い争いが繰り広げられたりするのですが、実際のところ現在では大きな違いはないようです。ただ、歴史的には鵞鳥のほうが時間をかけて育てますし、体が大きい分フォアグラも多く採れ、味わいも繊細で素晴らしい、という意見は多かったようです。
現在流通しているフォアグラは圧倒的に鴨のものが多いと思います。
これは鴨のほうが病気などに強く身体が丈夫であったためで、鴨にとっては不幸だったのですが、数が安定することで金額的にも抑えられている商品が増え、鴨のほうが与えるエサも少なくて済むので、人間にとっては幸せ、ということになるのでしょうか。

フランスの南西部、ボルドー地方などでは、農家から木箱に入って届いたフォアグラを、コニャックに漬けておいた皮むきブドウと合わせてまるのまま鍋に入れて蒸し焼きにしたりします。最初20分ほど蒸し焼きにした後、一度余計な油を取り出し更に10分。素朴でありながら素材が見事に前に出た料理に仕上がります。
地方料理も機会を見て紹介させていただきます。

今日はここまで。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
2週間に1度程度の更新予定です。

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